なでかたジョンの雑記

元中国語学専攻の元同人作家兼元踊り手の、元も子もないブログです。

格変化も活用も全部忘れたけど久々に好き放題言いながらロシア語を読む②

ごきげんよう。なでかたジョンです。

お腹周りの肉が気になってきたのでサボっていたダンスの練習を再開しました(日記要素)。

"ВЕРНАЯ ЖЕНА"の続きを読んでいきたいと思います。

あ、ちなみにこの話の全文はここで読めます(但しアルファベットがウクライナ語のそれになってます。やっぱ早いうちに序文を読んでおいたほうが良さそうです)

 前回は両親を亡くした一人息子が「どうやって嫁さん探すべ」ってなるところで終わりました。短いので2パラグラフいっちゃいましょう(е = ё, шш = щ はについては原文のママとしました)。

Потом идет возле речки по угору, гуляет, девиця белье полошшет, весьма, ему пригленулась.

Удумал: возьму я эту девицю взамуж. Штож, што она небогата, ― вовсе она приглядна.  (p.1)

 

  1. Потом(副) идет(動) возле(前) речки(名・男生) по(前) угору(名・男与), гуляет(動), девиця(名・女主) белье(名・中対) полошшет(動), весьма(副) хороша(形・女), ему(代・与) пригленулась(動).
    ・やや長めですが、時系列順に出来事を短文で連ねていくだけのシンプルな文になってます。日本語の古文と似てますね。途中経過では動詞が不完了体現在、最後の結果だけ完了体過去になっていますね。
    ・идётはидтиの3単現ですね。идтиは「(歩いて)行く」という意味の移動の動詞*1глаголы движенияで(不完了体)定動詞です。
    возле + (生格)で「~のそばに」。речкиはрека「川」の指小語*2речкаの生格。
    ・угоруは博友社ロシア語辞典には載ってなくて、研究社の露和辞典を引いたら「угор: (方) 丘陵」とありました。これなら与格がугоруになるので辻褄が合いますね。しかしどこの方言なんでしょう。気が向いたらВикисловарьとかで調べてみます。
    ・полощетはполоскать「すすぎ洗いする(不完)」の3単現のようです。この動詞は変化型としては第Ⅰ変化に属するものの、語幹がполощ- になるんですね。見慣れないタイプです。意味的にはскатить「斜面を転がし落とす」と関係がありそうです。斜めに立てた洗濯板の上でゴシゴシやる絵を想像してください。
    пригленуласьの元の形はприглянутьсяだと思われます。恐らく母音交替があったのでしょう。意味としては「(主格)が(与格)の気に入る、(与格)が(主格)を一目で好きになる」です。-ся動詞では主格が受益者・被害者になったりするんでしたよね。
  2. Удумал(動): возьму(動詞) я(代・主) эту девицю(名・女対) взамуж(副).
    ・直接話法ですね。下位の文章ほど間接話法よりも直接話法が多くなるらしいです(言われてみれば確かにという感じ)
    ・удуматьはу(動作が十分に発揮される) + думать(思う・考える)で「思いつく」という意味の完了体動詞です。
    ・возьмуの元の形はвзятьです。взятьは活用が厄介(二年の期末試験で間違えた思い出)。братьの完了体で「手に持つ、取る、奪う」などの意味です。
    взамужという語は辞書に無かったんですが、代わりにзамужが載っていて、взять замуж + 対格で「~を娶る」という解説が載っていたのでほぼ間違いないと思います。接頭辞за-もвз-(вза-)も<完成>というニュアンスを持つので交替するのも理解できるのではないでしょうか。
  3. Штож, што(副) она(代・主) небогата(形・女), ― вовсе(副) она(代・主) приглядна(形・女).
    ・чтоがштоという綴りになっていますね。そもそも考えてみればなんでчで[ʃ]の音になるんだって話なんですけども。たぶん歴史的な要因があるのでしょう。他のスラヴ諸語を見ると、ブルガリア語では「що(щは元々штを一文字にしたもの)」、ベラルーシ語、マケドニア語などでは「што」となっており、南スラヴでは発音と表記が一致している傾向がありそうです。
    ・штожはчто жеと同じと考えて良さそうです。же→жのように語末の音が落ちることをapocope(語末音消失)というらしいです。жеは疑問を強調する助詞。

    語尾音消失 - Wikipedia
    ここでのштоは「何」ではなく「なぜ」という副詞と考えないと文構造がおかしくなってしまいますね。
    ・небогатыйは文字通りбогатый「富んでいる、裕福な」の否定なので「貧しい」という意味です。
    ・приглядный「見栄えがする、美しい」や上述のприглянутьсяは動詞грядеть(不完了体。完了体はглянуть(一回の動作)*3)「見る、見守る、眺める」と関係があると思われます(更に言うとглаз「目」が元でしょう)。美しさは視覚的なものですからね。

今回はそれほど苦戦しませんでした。やっぱ研究社の露和辞典は優秀だなぁ。では以上を踏まえて訳してみましょう。

(試訳)

後日一人息子が川のそばを丘に沿ってぶらぶら歩いていると、一人の娘が洗濯をしていました。その娘は非常に美しく、一人息子はひと目で気に入ってしまいました。そこで一人息子は考えました。「この娘を嫁に貰おう。しかしいったいどうしてこの娘は貧しく暮らしているのだ。まったく美しいなりをしているのに」

 

実際に訳してみると、原文の文と文の間にちゃんと接続詞が欲しくなりますね。前後の繋がりを見て適度に補いました。あとидтиとгулятьの訳し分けが難しかったです。

次回は一人息子と娘の掛け合いになると思います。盛り上がってきたじゃない!それでは~

*1:詳しい説明はこちら

*2:「手」に対する「おてて」のような表現。ロシア語には色んな名詞に対してこの指小語が存在します。「-чка」の形をしてたら大体指小語っていう印象。某エリーチカとか。参考になりそうな論文:

http://dspace.lib.niigata-u.ac.jp/dspace/bitstream/10191/27108/1/3_53-64.pdf

*3:一回の動作を表す完了体動詞は-нутьで終わるものが多かった気がします