なでかたジョンの雑記

元中国語学専攻の元同人作家兼元踊り手の、元も子もないブログです。

格変化も活用も全部忘れたけど久々に好き放題言いながらロシア語を読む④

ごきげんよう、なでかたジョンです。

別の記事で近況報告をしてしまったので今回は日記要素なしです。あ、あるとしたら我らがもつあき先生が先月待望の初単行本を刊行していたことに最近気がついたってことくらいですかね。

それではさっそく読んでいきましょう。

 前回までのあらすじ:商人の親に先立たれた青年がぶらぶら散歩してたら貧しそうだけどめっちゃ美人な娘を見つけたから家までストーキングしたよ(いともたやすく行われる犯罪行為)。

 ーНу, купець именитой, што вам тако нать? Сапоги работать, али стары починять?
 ーНе сапоги работать, не старя починять, пришел я на вашей девици свататься.
 ーШто ты, купець, смиешься! возьмешь-ле ты мою дочерь? Вы богаты, а мы бедны.
 ーСлавиться не будем, бери из магазина, што надобно: люди будут убиваться, што именитой у бедного берет, а ковды справимся да обвенчаемся, товды и свадьбу поведем. (p.10.)

  1.  Ну, купець именитой, што вам тако нать?
    ・""""нать""""(絶望)
    ・такоはтак(英語のso)の古い形とВикисловарьくんが言っております。古教会スラブ語で такъ、東スラヴの共通祖語でтакоとのこと。1769年の用例も載っていました。
    ・именитый「社会的地位の高い」はВикисловарьに「имеющий имя, репутацию(名声、評判のある)」とあるように、иметь「所有する」と関係がありそうです。しかし何故女性形なのか(格はおそらくвамとの一致で与格でしょう)。купецьが男性名詞でありながら女性и変化をしているのでしょうか(それでも現代ロシア語では与格でкупециとしなければならないのですが)
    問題のнатьですが、そろそろ文脈からなんとなく意味が想像できる気がしませんか?前回はНать (, верно,) жонитьсяという形で出てきました。いきなり不定形で出てきて、動詞の不定形を導いているところを見るに、можноのような法助動詞の類のように思えます。そして今回のшто вам тако натьを訳すとしたら「あなたは何をそんなにнатьなのですか」となり、そのあとに動詞の不定形が来ています。察するにхотеть「~を欲する、~したい」やнадо「~する必要がある」のような意味を持った法助動詞なのだと思います。ていうかнадоとнать、割と似てますね。Викисловарьで語源を見てもあまり決め手になるような表現は見つけられませんでしたが。

  2. Сапоги работать, али стары починять?
    ・алиはили(英語のor)の俗語、民話で出てくる形だそうです。
    ・старыはстарый「古い」の短語尾複数を便宜的に名詞として用いている感じですかね。どの程度文法的かは今の所よくわかりません。
    ・починятьは「直す、修理する」という意味の不完了体動詞。

  3. Не сапоги работать, не старя починять, пришел я на вашей девици свататься.
    ・пришелは前回出てきたприходить「到着する、来る」の完了体過去。文全体としては「俺は~しに来たわけでも~しに来たわけでもなく~しに来たんやで」という構造ですね。
    ・свататьсяは「求婚する」という不完了体動詞。сват「仲人」と同語源でしょう。辞書によれば求婚する対象はкまたはзаで導くとあるんですが、ここではнаで導いていますね。
    ・на+対格なら《動作対象》表せるしいいかな~と思ったんですけど、вашей девициって女性対格っぽさないですよね・・・前置格・・・?前回эту девицюっていう対格形が出てきてるから少なくとも対格ではないですね・・・。しかし女性軟変化なら前置格は"-e"なんですよね~。"-ия"で終わる女性名詞は前置格"-ии"ということと、現代ロシア語の正書法規則から"ця"とか"цю"っていう綴りはありえないということから考えて、-ця=-ция(前置格-ци)みたいな地域変種だと思っておきますか・・・。とはいえなんでここでна+対格じゃないんだ・・・。

  4. Што ты, купець, смиешься! возьмешь-ле ты мою дочерь?
    ・смеяться(2nd,pl. смеёшься)は「笑う、冗談を言う」という不完了体動詞。смех「笑い」と同語源で、更に言うと英語のsmileとも同語源っぽいですね。
    ・дочерьはдочьの古語or方言。女性名詞で主格が-ьで終わるものは対格も同じ形でしたね。

  5. Вы богаты, а мы бедны.
    ・こっちでは2人称敬称のВыを使っていますが、前の文ではтыと敬称になってないですね。敬称を忘れることで慌てっぷりを表現したってところでしょうか。

  6. Славиться не будем, бери из магазина, што надобно
    ・長いので2つに分けます。この辺が今回のヤマ。あとアレですね、ここの件はずっと娘のパパと商人の一人息子の掛け合いだと思ってたら、ここも娘側のターンなんですね。じゃないと意味が全く通らない。
    ・cлавитьсяは「~で知られている、有名である」という動詞。未来時制ですね。
    ・бериはбратьの命令形です。братьは完了体のвзятьが既出ですね。命令形を使った表現の意味についてはすっかり忘れてしまったので調べ直しました(ここを参照しました。いつもお世話になっています)。ここでは不完了体での命令なので相手に促す感じですかね。
    ・что надобноというのは辞書に載っていませんが、надобно=надоであることを頼りにもう一度調べると、что надо「(俗語)申し分のない」という意味が載っていますね。

  7. люди будут убиваться, што именитой у бедного берет, а ковды справимся да обвенчаемся, товды и свадьбу поведем.
    ・убиватьсяは「嘆き悲しむ、身を捧げる」といった意味。убиватьは「殺す」ですね。アレ、じゃあばあちゃるの「うびば」って・・・?
    ・ковдыはкогдаに同じとВикисловарьくんが申しております(同様にтовдыはтогдаですね。こっちは載ってなかったけど)。つまり、ковды…, товды...で「…のとき、…」という構造になっているわけですね。
    ・беретは最初「なんでここでベレー帽が出てくるんだ…なんか階級を表すアイテムなのか…?」と首をひねっていたんですが、なんていうことはない、братьの3単現берётでしたね。
    ・именитой、さっきは女性与格かな?と思ったんですが、ここは明らかに男性主格ですよね。現代ロシア語で男性主格が-ойで終わる形容詞は必ず-ойにアクセントが来ると本で読んだ気がするんですがねぇ…(本来はименитый)
    ・справитьсяは辞書で引くと「尋ねる、処理する、克服する」という意味なんですが、この文脈でどう訳せばいいかわかりません。Викисловарьくんにсправитьсяするか…えーっと、「服従させる、(好ましくない状況から)脱する」という意味もあるんですね。「人々の悪い噂を克服する」という感じにとっておきましょう。
    ・поведёмはповести「導く、先導する、開通させる」の1人称複数形。
    ・товды и свадьбу поведемの訳をどうしようと困っていたんですが、иの用法に「хотяに近い意味を持ち、接続詞 а, да, так, толька ではじまる第2の文とともに用いられ、譲歩を表す」というのがあったのでこれで解釈しようと思います(牽強付会な感は否めない)。

 

(試訳)

 

娘の父「はて、貴方様のようなご立派な商人様が、なぜこのようなところに。靴でもこしらえますか。それかボロ靴でも直しますか」

一人息子「私は靴をを作りに来たわけでも直しに来たわけでもありません。あなた方の娘さんに結婚を申し込みに来たのです」

娘の父「商人様、アンタ、ご冗談を!うちの娘を貰おうって言うんですかい!?貴方様は裕福でいらっしゃるが、私どもは見ての通り貧乏だ」

娘「私達は名声を浴びる見込みもございません。どうか然るべきご身分の商人様のところからお嫁をおもらいになって。さもないと『身分の高い者が貧民の嫁をとった』と人々が嘆くことでしょう。ですが、そういった噂を克服して結婚できるのなら、結婚させていただきたいことはいただきたいですけれど」

 

いかがでしょうか。ネタバレになりますが、次の段ではもう結婚が成立してしまっているので、最後は結婚に前向きな感じを出して訳してみました。合ってるかどうかわかりませんが一応意味は通ってると思います。

今回も、「とりあえず話の流れを掴む」段階では特に気にならなかったけどいざ記事を書いてみると「あれ、そういえばここってどうなってるんだ…?」となることが多かったですね。アウトプットは大事。

いよいよ次回からは結婚生活が始まります。楽しみですね。それでは、ごきげんよう