なでかたジョンの雑記

元中国語学専攻の元同人作家兼元踊り手の、元も子もないブログです。

格変化も活用も全部忘れたけど久々に好き放題言いながらロシア語を読む③

ごきげんよう。なでかたジョンです。

注文してた諸々の機械がお家に届きました。初めてのデスクトップPCです。これから楽しみ。でも持ち出せないのでノートPCくんにも今までどおり活躍してもらうことでしょう。

あと巷で話題のU.S.A.の振りを練習したりしていました。披露する機会があるかはわかりませんが。やっぱDA PUMPはすごいなぁと思いました(こなみ)

それでは前回の続きです。あ、ちなみに今序文を少しずつ読んでいるところです。何か有意義な情報があったらこちらに反映しようと思います。

 ようやく台詞が出てきます。

  ーТы, девиця, какова рода, какова отца?

  ーЯ бедново сословья, у меня отець сапожник, живет бедно.

  ーИдешь-ле за меня взамуж?

  ーКака я невеста? Я человек бедной!

  Потом девиця пошла, он за ей след пошел, узнать, какова она места. Приходит девиця, ーизбушка маленька. Он зашел фатеру. Отец у их сидит, сапоги роботает. (p.2.)

  1.  Ты, девиця, какова рода, какова отца?
    意味だけふわっと渫うのであればそれほど問題にはならないのですが、文法面から見た時に色々と謎があります。
    ・каковはヒト・モノの性質・様態などを問う疑問詞です。形容詞短語尾と同様の変化をします。каковаは女性・単数形ですね。しかしродаもотцаも男性単数生格じゃないですか。なにこれ。
    ・生格になってる理由はわからないでもない。否定生格の可能性です。スラブ諸語では存在しないものについて述べる時、しばしば名詞が生格の形を取ります。そこから類推して、「貧しいのは家族(あるいは家長)がいないからなのでは?」という前提で発話していると解釈すれば、まぁ理解できないことはない。
    ・問題はкаковが女性形であることです。後ろに来る名詞の語尾と同化(assimilation)したと考えるべきなんですかね…いずれにせよ不可解です。

  2. Я бедново сословья, у меня отець сапожник, живет бедно.
    ・бедный「貧しい」は前回出てきたнебогатыйとほぼ同義です。合わせて覚えたいですね。
    ・у меня отець сапожник「私のところでは父が靴工をしています」はмой отец сапожник「私の父は靴工をしています」とほぼ同義と考えていいでしょう(厳密にはニュアンスが異なりますが)。отецьの語末のьは謎です(たぶん歴史的経緯による何か)。
    ・житьは通常「住む、暮らす」という意味ですが、ここでは家族全員ではなく父親だけが主語になっているので「生計を立てる」という意味で訳すのが良いでしょう。живет бедноで「(父は)稼ぎが悪い」というような意味になります。
  3. Идешь-ле за меня взамуж?
    ・また出ましたね"-ле"。でも前回出てきた時は"купца-ле"と名詞に付いてて今回は動詞についています。特に文法的規則とは無縁なような気がします。であるならば、これは何か別の意図(例えば「原文ママ」のような*1)があって書き添えられたと見るほうが良さそうです。暫く様子を見ることにします。
    ・идти замуж за когоで「誰々に嫁ぐ」という表現です。
  4. Потом девиця пошла, он за ей след пошел, узнать, какова она места.
    ・пойтиは「出かける、動き出す」という意味の完了体動詞。
    ・за ей следはやや問題の表現。意味としては「彼女の後に続いて歩き出した」とかそんな感じになると思いますが、その場合前置詞заは対格следよりも造格следомをとるべきなはず。また、онаが与格/造格になっている点も不可解で、普通に所有代名詞еёにすればいいはずなんですが。好意的に解釈しようとしてза ей(造格)で1フレーズとしても、следが浮いてしまいます。ここも保留ですね…
    ・узнатьが不定形なのは「~を知るため」という目的を表すためでしょう。そういえばкакова она местаもкаково её местоで良い気がしますね。スラブ語の所有代名詞の歴史を参照したほうが良いかもしれません。
  5. Приходит девиця, ーизбушка маленька.
    ・Приходитが不完了体であることに気をつけましょう。
    ・избушкаはизба「木造の百姓家(リンククリックで画像検索結果)」の指小形です。それを更にмаленька「小さい」で修飾しているのでよっぽど小さかったんですね。
  6. Он зашел фатеру.
    зайтиは「立ち寄る」、фатерはWiktionaryを見ると「apartment」と書いてあって「百姓の家がアパート…?」となるんですが、博友社の辞書でквартира(=apartment)を引くと「フラット(共同住宅のなかで一家族が占有する同一階上のひと組の部屋)」とあるので、イメージとしては平長屋のようなものなんだと思います。
  7. Отец у их сидит, сапоги роботает.
    ・роботатьは普通「([場所]で、[職業]として)働く」ですが、「(職人が)~(対格)を作る、制作する」という用法もあるようで、ここはそっちで解釈したほうが良いと思われます。
    ・上で出てきたсапожникはсапогиを作る(修理する)人なんですね。語が派生する際にгとжはよく交替するように思います。

(試訳)

「君、お嬢さん、家族は?お父さんは?」

「私は貧しい身分なもので、父は靴工を営んでおりますが、それほどお金にはなっていないんです。」

「うちに嫁に来ないかい?」

「どうして私が貴方様の嫁になりましょうか!しがない貧民ですよ!」

それから娘はその場を離れてしまったので、一人息子もその後を追いました。娘の暮らすところがどんなものか知りたかったのです。

娘が到着しようとしていたところは、小さな小さな百姓家でした。一人息子は娘の家に立ち寄ってみました。すると娘の父親が座って靴を作っているところでした。

 

どことなく日本人に馴染み深い貴種流離譚の匂いがしますね。というか開口一番「家族は?お父さんは?」とか突然のプロポーズとか、中々にメンタルが強いというか。男女格差とか身分格差が顕著だったんですかね。

では、また次回。ごきげんよう

*1:一応ロシア語で「(ママ)」をどう表記するか調べたら「sic」らしいです。