なでかたジョンの雑記

元中国語学専攻の元同人作家兼元踊り手の、元も子もないブログです。

どうしても西夏文字を諦めきれないので自分で勉強する①

ごきげんよう。なでかたジョンです。

突然ですが、西夏文字っていいよね。皆さん『シュトヘル』読んでますか?

私が初めて西夏文字を見たのは高校の世界史の教科書でした。あの装飾的なフォルムにビビッと来てしまいましたね・・・。

その後大学一年の総合演習とかいう必修科目で自由なテーマで研究発表する課題がありまして、私は西夏文字をテーマにしたんですが・・・まぁ素人に太刀打ちできるわけがなく。

その時読んだのがたしか西夏王国の言語と文化』だったと思うんですが、シナ・チベット語族の言語的特徴を踏まえて西夏語を繙いていくみたいな進め方で、当時言語学について何も知らない私には到底歯が立ちませんでした。

しかしやっぱり西夏文字を諦めたくない!あの文字を読んで書けるようになりたい!

と思っていたところ、図書館でこの本(以下「聶 2014」)に出会ったわけです(案の定Amazonには出品されていませんでした)。

book.douban.com

「国家珍贵古籍名录」というシリーズで、『番汉合时掌中珠』という資料が西夏文字の解読にどのように寄与したかという解説を軸に、西夏文字のシステムなどを紹介していく入門書と考えて良いでしょう。

この本を執筆した聂鸿音という人物の経歴を百度百科で見ると、「中国社会科学院*1の研究員で中国民族古文字研究会の常務理事、世界で数少ない西夏語を解する学者であることは勿論、英語、ロシア語、フランス語、ラテン語等の言語を操り、チベット語、回紇(ウイグル)語、契丹語、女真語等の滅びた言語の比較研究を専門にしている(要約)」とあって、要するに「碩学」ってやつですね。わかりやすく言うとバケモン学者。

baike.baidu.com

そんなやべー人が書いた西夏文字の入門書が48元(だいたい800円弱)で買えるんだからお得ですよね。想定もスタイリッシュだし良い紙使ってそうなのに。やっぱ中国の出版業は強い。

ということで、この本とかうぃきぺとか見ながらお勉強したことをアウトプットしていこうと思います。

 

西夏とは。また西夏文字とは。

西夏(大白高国*2)はタングート族の李元昊が1038年に宋の北西に建国した国です(下図参照)。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/b/bc/China_rel96.jpg

西夏は1227年蒙古軍の侵攻を受けて滅び、タングート族自体も明代中期以降歴史の表舞台から姿を消してしまった*3上に西夏についての1次資料が極めて乏しく、当時の姿を知ることが非常に困難です。

その肝心の1次資料も西夏文字というようわからん文字で書いてあったため学者たちも頭を悩ませていたわけですが、20世紀の初めにカラホト(大体の位置は下図参照)から西夏語・漢語辞書が発掘されたことによってようやく読めるようになり、その辞書というのが他でもない『番漢合時掌中珠』(以下『掌中珠』)なのです。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/b/b1/Location_of_Alxa_League_within_Inner_Mongolia_%28China%29.png

『掌中珠』はタングート族の骨勒茂才が1190年に「編集("编写"(聶 2014, p.1.))」したものが最も古く、かつて学術界では「打开西夏文字之门的金钥匙(西夏文字の門を開く金の鍵≒URアイテム)(聶 2014, p.1.)」と称されていたとか。この辞書はたった37頁しかなかったのに、この発見後すぐに敦煌学と名を連ねるような西夏学という学問が出来上がってしまったということは、それほど画期的な大発見だったということですね。

この『掌中珠』のおかげで西夏人の思想や暮らしぶりが少しずつわかってきているのであり、『掌中珠』は西夏について学ぼうと志す人がまず真っ先に読むべき西夏語の書物なのです。

 

取り敢えず西夏文字を学ぶに当たって『番漢合時掌中珠』は必ず読まなければいけないということがわかりましたね。勿論大学1年時の私は目も通しませんでした。

本日はここまで。続きをお楽しみに。

*1:中国の哲学及び社会科学研究の最高学術機構(ソースはwiki

*2:西夏語による自称。西夏人は白を尊んでいたためとされる。ソースは百度百科

https://baike.baidu.com/item/%E5%A4%A7%E7%99%BD%E9%AB%98%E5%9B%BD

*3:「党项民族也在明代中期以后退出了历史舞台」(聶 2014, p.1.)