なでかたジョンの雑記

元中国語学専攻の元同人作家兼元踊り手の、元も子もないブログです。

格変化も活用も全部忘れたけど久々に好き放題言いながらロシア語を読む

ごきげんよう。なでかたジョンです。

今回はアニメや漫画の話じゃないです。最近はイナイレ初代とGガンダムを観始めつつアイカツフレンズを追いかけ始めました(今第5話まで観た)。風丸くん超可愛い。

私、学部1,2年の時の第二外国語でロシア語を選択してたんですけど、必修が終わってからはめっきり触れなくなってしまったなぁ~というお気持ちになったので、「じゃあ読もう!」っていう企画です(導入に尺を使いたくないので日本語が下手でも許してください)。

 

 今回読む本は、大学の文学部図書館から適当に選んだ『ПОМОРСКАЯ САГА(1984,Советская Россия)』です。背表紙に壁画風の絵が描かれていてお洒落だったので思わず手に取ってしまいました。Amazonには出品されていなかったので、代わりにロシア版Amazonの「OZON」のURLを貼っておきます(流石に埋め込みとかはできないのかな)。

https://www.ozon.ru/context/detail/id/1692387/

さて、これがどういう本かというと・・・よくわかりません(とても長い前書きをちゃんと読んでたら本文に辿り着く前に返却期限が来てしまう)。

タイトルの「ПОМОРСКАЯ」というのは「ПОМОР*1(北ロシアの沿海住民であるポモール人)」が形容詞化した語で、「САГА」というのはいわゆる「サガ」、まぁたぶん民話みたいなものだと思うので、ロシアの北極圏に住んでる人たちの昔話なんでしょう、きっと。

まぁでも折角OZONに短めの紹介文が載ってるのでこれを読んでみますか…。え~っと…

Описание: Издание 1984 года. Сохранность хорошая.Русский Север, архангельское*2 Поморье, издавна является*3 хранилищем неоценимых культурных сокровищ, созданных народом*4. Именно здесь жило изустное творчество, одухотворившее*5 поморскую литературу и сформировавшее ее особенности.

(説明:1984年刊行。保管状態良好*6。ロシア北部、アルハンゲリスクの沿岸地域は、古くから人々によってつくられた種々の非常に貴重な文化的財産の保管庫であった。ここにこそ、ポモールの文学にインスピレーションを与え、その特殊性を形成した、口承による創作が息づいていたのである。)

・・・長い時間費やして読み解いた割に得るものが少なかった感が否めませんね…。まぁ少しは文法の復習ができましたかね。それでは本文を見ていきましょう。

 今回はこの本の1番最初のお話、"ВЕРНАЯ*7 ЖЕНА"(「頼もしい嫁さん」とでも訳しておきましょうか)の最初のパラグラフを読んでいこうと思います。ロシア語タイピングに慣れる意味も込めて原文も引用しておきますね。

Бывало, живало -- купець да купчиха. Бывало у их один сын. Они торговали исправно. Был купець богатеюшший. Купець помер, купчиха тоже помирла. У их остался один сын. Ну живет, поживает один. 《Нать, верно, жониться. Кака мне невеста взять, у купца-ле какого, у генерала, у кресьенина богатого, где искать?》(本文9p)

 はぇ~ロシア語の配列難し~。でも出現頻度が高い文字はなるべく中央に集まってるってのは感じました。早く慣れたいですな~。1文ずつ見ていくことにしましょう。

①Бывало, живало -- купець да купчиха.

・代名詞を使わない名詞述語文が "(名詞) ― (名詞)" の形をとるの、授業の最初の方で習ってかろうじて覚えてましたね。

・бывалоとживалоが最初の登場人物ですね。живалоはженаからの類推っぽくて象徴的な匂いがします。民話らしい半匿名性とでもいうべきものを感じます。趣深いですね。ところでどちらも-oで終わってるのが些か不思議です。-валоという形にも何か根拠がありそうです。余裕があったら調べてみたいですね。

・купчихаは辞書によると「女性商人、またはкупецьの妻」と出ていました。商人を表す名詞にも性差が存在する辺り、きっと古めのロシア語なんだろうなあという感じがしますね。そういえばこのテクストはどういう来歴なんでしょう。現地の人間から聞いたものをそのまま文字に起こしたのか、それとも文字資料が存在するのか…その辺も含めて、読解に慣れてきたら早めに序文を読んでおきたいですね(日本語による解説はネット上に存在しなかったので独力で頑張ります…)。

・ここでのдаは"yes"ではなく、иと同じ"and"の意味の接続詞です。

②Бывало у их один сын.

・所有の表現と思われますが、教科書で目にするもの*8とはだいぶ異なる形をしていますね。というかБывало必要ですかね…?ихは3人称複数生格なので単数のБывалоを受けるわけでもないし…あるいは、父親が誰か明確にすることが重視されていたのでしょうか。

・естьの省略は「所有者にとって不可分なもの(身体部位等)について話す時」や「所有という事象より所有されているものに関心がある時」には省略が起こりやすいらしいです(こことか参照)。この場合も「夫婦に子供がいるのは自明なので所有そのものに関心が向けられていない」という前提があるのかもしれません。

・前置詞の直後でихがнихになっていない*9点も気になるところです。もしかするとロシア語史が絡んでくるかもしれないですね(これとか読むべきかしら)。

https://www.amazon.co.jp/%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A2%E8%AA%9E%E5%8F%B2%E5%85%A5%E9%96%80-%E4%BD%90%E8%97%A4-%E7%B4%94%E4%B8%80/dp/4475018919

③Они торговали исправно.

・торговали:「商売をする」。торг (n)「商売、市場」からの派生動詞と思われます。

・исправно:「勤勉に、正常に」。право (n) 「法律、権利、根拠」と繋がりがありそうです。

④Был купець богатеюшший.

・богатеюшший:「金持ちになる」という不完了体動詞богатетьの能動形動詞現在*10。不完了体なので「金持ちになっていった」のように訳すべきでしょう。

・ここの主語がБывалоになってる*11の、夫婦で勤勉に商売をしたのに夫が手柄を独り占めしてるみたいな表現ですね。まぁ家長権が云々みたいな話なんでしょうな。

⑤Купець помер, купчиха тоже помирла.

・помер:помереть「死ぬ」の男性単数過去形。померелとはならないんですね。

・突然の死。まぁ息子が主役なので、彼が成長するまでの話は割愛されてしかるべきですかね。

⑥У их остался один сын.

・特に問題ないでしょう。「(既にこの世にいない人間)の下に残された」という表現が少し気持ち悪くはありますが。この文までは何とか文意がある程度正確に取れている自信があります。

⑦Ну живе(ё)т, поживает один.

・нуを辞書で引くと「さあ、さて」といった間投詞と出てくるんですが、これでいいんでしょうか。ここから息子が物語の主役になったことを印象づけるためのマーカーとして捉えるべきなのかもしれませんね。

⑧《Нать, верно, жониться.

・натьがマジで全然わからない。紙の辞書に載ってないからネットで検索するとインドの放浪の民みたいなのしか出てこない。これは図書館でデカい紙の辞書を漁るしかなさそうですね…

・жонитьсяは恐らくжениться「結婚する」と同じ語でしょう。oとeが交替する例はどっかの言語で見たことあるので、ロシア語の歴史をちゃんと調べればきっとそういった記述が見つかると思います(強気にmove)。

⑨Кака мне невеста взять, у купца-ле какого, у генерала, у кресьенина богатого, где искать?》

・今までずっと短文続きでしたが、ここでようやく長めの台詞が来ましたね。でもわからない部分が多すぎる。全体として「どこで嫁さん探すべ」ってことを言ってるとは思うのですが。

・какаはкакの変化形でしょう。主語が女性名詞だからそれに合わせて変化してる?какがкакойの短語尾形に端を発しているとしたら頷けますが、どうも教会スラヴ語の時点でкакとкакойは分化しているらしい?あるいは再分析の線も考慮に入れるべきでしょうか。要調査です。

・最初の4語の構造がかなり怪しい。невестуと対格になっていてくれたら「私はどうやって花嫁を捕まえるべきか」とすんなり訳せるのだが、何故断固として主格を取るのか…

・-леって何やねん。地味にгенералも「いつの時代のどういう身分の人間を指しているのか」を真面目に考えると中々難しいですね。

・кресьенинはкрестьянин「農民」と同じ語であるようです。これも音変化と関わりがあるのだとか。詳しくは調べてません。

 

そんなわけで、最後の方はだいぶ怪しいけど一応試訳です。

 

昔々あるところに、商人のБывалоとその妻のживалоがおりました。二人の間には一人の息子がおりました。夫婦は真面目に一生懸命働いて、どんどん裕福になっていきました。しかしやがてБывалоもживалоも死んでしまい、息子は一人残されてしまいました。さて、息子はなんとか一人で生計を立てて暮らしていましたが、「俺もそろそろ結婚しなくちゃいけないな。しかし嫁さんをどこで捕まえたものか。商人の娘か、将軍の娘か、それとも裕福な農民の娘か、どこで探したものだろうか」と考えておりました。

 

カギ括弧内はわからないところも雰囲気でそれっぽく訳したので、恐らく後々修正することになるでしょう(汗)。

こんな感じで少しずつ読み進めてロシア語を思い出していけたらな~と思います。

 

(2018年9月12日追記)

あれから大学のデカい露露辞典をひっくり返したり『ロシア語史入門(以下、佐藤 2012)』を借りてきたりしました(読了はしてません)。

・"у их" が "у них" になっていない:10世紀~14世紀後半の古ロシア語期には既に「挿入されたн」эпентетическый 'н' が文法として確立しており(佐藤 2012, p.77)、やはり不可解です。念の為ウクライナ語の文法も調べてみましたが、やはり同様にэпентетическый 'н' がないと非文とされていました。

・нать:ま~じで見つからない。ウクライナ語の辞書には載ってるみたいだけどウクライナ語わからん。やっぱり保留。

その他はいまだ手がかりなしです。

*1:"по(~に沿って)"と"море(海)"から成る。ポメラニアンも同語源だとか(すべてwikipediaで得た知識)。ついでに下の紹介文に出てくる"поморье"も同語源ですね

*2:ロシア語では地名が形容詞化すると語頭を大文字にしないんでしたね(汗)。暫く「大天使の沿岸」ってなんだ…?ってなってました

*3:явряться:(+造格)~である、~となる

*4:受動形容詞を用いた受け身表現における動作主は造格で表すってことをすっかり忘れててだいぶ時間持ってかれました…

*5:完了体動詞одухотворитьの能動形動詞過去

*6:中古品だったみたいですね

*7:вернаяはверныйの女性形。これが戦艦のベールヌイの由来というのは今更言うまでもないでしょうか。

*8:у +所有者を表す生格+есть+名詞

*9:小テストならまず減点されるポイントです

*10:現在3人称複数形の最後の -т を -щий に代える

*11:夫婦2人が主語ならбылではなくбылиになるはず